『センスは知識からはじまる』水野学

グッドデザインカンパニーの水野さんの本。センスは、資質で決まるのではなく、知識を蓄えることで獲得できると説いている。

 

以下、メモ。

『アウトプットのスイッチ』にも書いた「〜っぽい分類」の話をしました。これは、「売れる商品のつくり方」として僕が導き出した方法。売れる商品はどれも、その製品らしさ(シズル)を内包しているものであり、そのシズルが人々の心を掴んでいる。売れるための的確なシズルを見つけ出すためには、その製品が「何っぽい」のかを分類しながら絞りこんでいく作業が有効である——という内容です。

・熊本のクマなら、ヒグマみたいに「和っぽい」のか、テデェベアみたいに「洋っぽい」のか?
・和っぽいクマであるなら、「何色っぽい」のか?

くまモンにしてもこのように形にしていったのだと、かなりていねいに説明をしたつもりでした。

 

 誰も見たことがない企画をつくることが大事なんじゃない。誰も見たことがなくても、狙ったターゲット層にちゃんと「売れる」企画でなければ社会からは求められないんだよ。最初は「ちょっと面白い」程度のアイデアだって、緻密な改良次第では普通でない尖ったものにすることができる。企画とは、アイデアではなく「精度」こそが重要なんだよ、と。
 また、「世の中がびっくりするような企画を思いついてやろうという気持ちは捨てたほうがいいよ。そういう自己アピールみたいな野心が、企画が浮かばない原因になることもあるから」という厳しい話もはっきりしています。

 

 18世紀半ばにイギリスで起きた産業革命で、世の中は劇的に変わりました。ものづくりに工業という概念が持ち込まれ、機械化が進み、大量生産が可能になりました。職人がコツコツつくっていた時代とは比べものにならない生産量でしょう。さらに、蒸気機関車というかつてなかった移動手段が生まれました。
 これらは素晴らしい技術の発展であり、進化なのですが、安かろう悪かろうの品が大量にあふれるというマイナス面も伴います。それに異を唱えたのが詩人でデザイナーのウイリアム・モリス。今でもそのデザインは美しい壁紙やプリントとして残っています。
 1834年生まれの彼は、「工場の大量生産品を使うのではなく、もう一度手仕事に戻ろう。暮らしのなかに美しいものを取り入れよう」と提唱し、さまざまなセンスある商品を生み出しました。これは「アーツ・アンド・クラフツ運動」と呼ばれます。モリスによる“センス革命”が起きたと言っていいでしょう。手仕事というなつかしさをフックにしたセンスの時代への変換です。

 

 世の中に、「誰も見たことのない、あっと驚く企画」というのは実はゴロゴロころがっています。しかし、「あっと驚く企画」には二種類あります。
 世の中で一番少ないのは、「誰も見たことのない、あっと驚くヒット企画」。僕のイメージとしては2%程度だと思います。
 次に少ないのが、「あまり驚かない、売れない企画」というものでイメージとしては15%くらいあります。
 次は「あまり驚かないけど、売れる企画」。これは意外に多くて、イメージとしては20%。
 そして一番多いのは、「あっと驚く売れない企画」。イメージとしては残る63%、半分以上を占めています。
 つまり、「誰も見たことのないような、あっと驚く企画をつくりたい」と思っている人は、たった2%の「あっと驚くヒット企画」にばかり目がいき、全体の63%を占める「あっと驚く売れない企画」に目をつぶっているのです。

 

 センスの最大の敵は思い込みであり、主観性です。思い込みと主観による情報をいくら集めても、センスはよくならないのです。
 僕たちはみなそれぞれ、自分なりの思い込みを持っています。考え方、これまでの生き方がその人の100%をつくり出しています。ファッションに限らず、ビジネスにおけるプランや企画においても、僕たちはなかなか主観性の枠から自由になれません。
 なかなか自由になれないからこそ、意識して思い込みを外すべきだと僕は感じます。思い込みを捨てて客観情報を集めることこそ、センスをよくする大切な方法です。

 

 前程として、「流行っているもの=センスがいいもの」ではないことを理解していただきたいと思います。ここを間違えている人は、意外と多いものです。

 

 僕はショップなどのインテリアデザインも手がけています。キャリアをスタートした頃にメインとしていたのはロゴなどのグラフィックデザインでしたから、インテリアデザインを始めた頃は、当然ながらショップインテリアに関する知識はほとんどありませんでした。そこで、知識のインプットから始めました。
 第一にしたのは、和風洋風を問わず、長く愛される老舗の内装をたくさん見て回ること。すなわち、「ショップインテリアにおける王道・定番は何か」という知識を蓄えることでした。同時に、多くの人が通い、一定の基準が設けられているコンビニなども、注意して歩いてみました。
 第二にしたのは、流行のお店にたくさん足を運ぶこと。
 第三にしたのは、王道と流行以外にもいろいろなお店を注意して見てみながら、「共通項は何だろう?」と考えてみることでした。
 そこから、自分なりに見つけた「入りやすいお店(=繁盛するお店)」に共通するルールを挙げていきました。これはかなり具体的で、「床が暗い色」「入口が高すぎない」「雑貨店の場合は、他のお客さんとの距離が近く少しごちゃごちゃしているくらいのほうが来客が多い」など。

 

 人一人が歩ける通路の幅は、どんなに狭くても600mmと言われています。900mmあれば譲り合うことで人とすれ違うことができ、1200mmあれば支障なく相互通行できるとされます。しかし僕が見た中では、最低とされる600mmを下回る500mmの通路幅の雑貨店もありました。確かに狭かったのですが、個人経営の小さな雑貨店だったので、その窮屈さがまた「小さな雑貨屋さんらしいシズル」を醸し出しており、こういうやり方もあるのだなと学びました。

 

 あなたは突然チョコレートの新商品の開発担当者に任命され、パッケージデザインの決定を任されたとします。次のステップを踏めば、センスある仕事をしていくことができます。

①まずは王道のチョコレートに関する知識を紐解いてみる。ひとつは、ベルギーやフランスなどの高級チョコレートの味と雰囲気。もうひとつは、昔から長く愛され続けているロングセラーの板チョコなどの味と雰囲気。
②次に、流行りのチョコレートを知る。最近発売された、競合他社の人気商品を調べる。最近話題の、ヨーロッパの新しいショコラティエの挑戦的なショコラを入手する。それらを観察し、味わい、パッケージにどのような特徴があるかをつぶさに知る。
③いろいろなチョコレートを知った上で、「そこに共通項はないだろうか?」と考える。そこからまず、疑問を見つけ、「チョコレートのパッケージはたいてい茶色か赤。なぜだろう?」と考える。「暖色系の相性がいいのは、チョコレートにはあったかいイメージがあるからだろうか?」「とろけるチョコレートというイメージが喚起され、おいしそうと感じるからだろうか?」
④次に、疑問から仮説を導き出す。「パッケージは暖色系、できれば茶色や赤やオレンジがいいのかな」
⑤最後に仮説を検証し、結論に結びつける。「でも、それじゃありがちだ。茶色の補色にあたる青も併せて使ってみるのはどうだろう。今回の製品はベルギーチョコレートのイメージだから、ベルギー辺りで生まれた書体を選んでみよう」

 

 現代社会において、センスとはマナーです。