『福島屋 毎日通いたくなるスーパーの秘密』福島徹

福島屋 毎日通いたくなるスーパーの秘密

独自の経営手法で、大手スーパーに負けずに頑張っているスーパーの社長さんが書いた本。なぜ福島屋がお客に愛されるのかが分かりやすく解説されています。

要所をメモしておきます。飲食店などの他業種の方にも参考になることがあると思います。

 

最近では福島屋の経営スタイルがユニークだということで、メディアなどにも取り上げられることも多くなり、全国各地から講演の依頼などもいただくようになりました。また、同業他社や地方自治体の方々もよく視察に来られます。
では、何が他のスーパーと違うのか。
一番の特色は、オリジナルな品揃えとコミュニケーションを大事にした運営管理だと思います。

 

確かに福島屋のような品揃えは他にはあまりないと思います。
とはいえ、品揃えのコンセプトよりも前に、まず考えなければならないことがあります。
最も大事なことは何かと言えば、それは「なぜ、何のために自分はスーパーをこの地域で営んでいるのか」「自分は何を、どうして売りたいのか」について、しっかり自分と向き合って突き詰めることだと考えています。
これはスーパーの経営だけでなく、他の事業でも同じですが、経営や日々の仕事がうまくいかないときというのは、そのうまくいかないことに正面から取り組んでいないことがほとんどです。過去の失敗を振り返ると、私自身もまさにそうでした。

 

根本的な部分があいまいだと、最初はうまくいっても後が長続きしません。ですから、私もまず「なぜ、自分がそれをするのか、何がしたいのか」を、何度も真剣に考えました。そして今もよく考えます。
私が経験してきたさまざまな失敗、紆余曲折に関しては第2章でお話ししますが、それらを経て、素直な気持ちで、お客様にとっての美味しさ、安心を追求し、吟味したものを提供したい。それを福島屋の一番の目標としました。
スーパーの果たすべき役割とは、そういうことだろうと思ったからです。

 

よく私は「美味しさづくりは幸せづくり」という言葉を使うのですが、美味しさを追求することは、そのまま人間の幸福、豊かな生き方をもたらすことにつながっていきます。
スーパーというのは、人間の幸せの根幹を担う食べ物を扱っているわけですから、高価なものというより美味しいものを提供することが社会的使命だと感じています。
当然のことですが、私は正しい商品を吟味してお店に並べます。そこから適切な報酬を得る。それが結果的に利益になっているわけです。「正しい」ということはとても大切で、情報発信や行動の原動力になるものだと思います。

 

では、具体的にどんな売り場にすればいいのか。それは、「優しさ」や「丁寧さ」など、人ととして大切な思いを、できるだけ心掛けて仕事をしていくことから始まると思っています。
気持ちが入っているかどうかは目には見えません。けれど、必ず伝わるものです。必ず売り場の雰囲気に出ます。
売り場づくりという作業には非常に人間性が出ます。売り手である私たちが、商品のことを真剣に考え、かつ買い物をしてくださるお客様のことを考えて丁寧に仕事をすれば、おのずとお客様は商品や私どもの姿勢を理解し、買ってくださいます。
そういう心の連鎖をすごく大事にしていますし、その力を信じています。そして心の連鎖は、結果的に売上にもつながっていくものです。

 

一般に流通している野菜は、主に品種改良を重ねてできたハイブリッド種ですが、自然栽培の野菜の多くは、農家の方たちが自然栽培した固定種と呼ばれる種からつくられます。ですから生育がまちまちで、かたちにもばらつきがあり、普通のものとは見た目が少し異なることがあります。大量の野菜を扱う市場では流通しにくい野菜です。

 

売り場づくりは担当者が真剣に棚と商品に向き合い、考え続けることが大切なのです。失敗して、考え直し、修正する。試行錯誤の繰り返しによって、どんどんお客様をワクワクさせる売り場に近づいていきます。
ところが、なかなかすぐには成果が出ないこともあり、ゴールまであと一歩というところで努力をやめてしまったり、あきらめてマネに走ってしまう人が多いんです。それが残念でなりません。

 

売り手の都合でつくられた棚は美しくありません。棚には人の心が投影されるので、こちらの都合が優先してしまっている売り場は、どことなく違和感があります。
例えば、牛乳や乳製品、納豆や生菓子など、いわゆる日配食品が売れ残ったとします。その場合、売れ残った商品を先に売りたいので、棚の前のほうに並べ、新しいものを後ろにまわします。でも、それこそまさにお店の勝手な都合です。お客様は新しいものを欲しいのに。そうした感覚の差が、店頭の違和感になるのだろうと思います。
何よりお店が失敗して売れ残りを出してしまったのに、それを前に並べて、先に古いほうを買ってほしいというのは、虫のいい話。ですから、私は新しい商品を棚の前へ出せと言います。売れ残ったものは、はっきりと売れ残ったものだと表示し、その分少し値引きして販売すればいいという考え方です。

 

店内をいつもピカピカにしておくこと。選ばれるお店であり続けるためには、何と言ってもクリンリネスが大切です。清潔感があって、どこもかしこも光り輝いていて、スカッとしていなければなりません。
商品や陳列棚にホコリがたまっていないか、床が汚れていないかは常に気を配るようにしています。そして、スタッフの皆さんにも徹底して指導しているのがトイレ掃除です。

 

匂いにも気を配っています。匂いは想像以上に店の雰囲気を悪くするからです。
お客様に「福島屋の売り場は臭くないのがいい。変な匂いがしない」と言っていただけるとホッとします。快適に買い物をしていただいていることを照明する言葉だからです。
私も地方へ出かけた際、地元のスーパーなどへ立ち寄るのですが、たまに、総菜売り場の周辺に酸化した独特の匂いが立ち込めていて、不快な気持ちになることがあります。
そういうことにならないよう、福島屋での総菜コーナーでは特に匂いを出さないように、揚げ物に使う油をひんぱんに交換して、鮮度を保っています。コスト管理も大事ですが、それよりも優先しなければならないものがある。そう思って、必要なことに関しては積極的にコストをかけるように心掛けています。

 

整理整頓は店頭だけでなくバックヤードも大事です。むしろ見えないところのほうが大切だと思います。スタッフが働きやすい基本は、整理整頓にあると思います。

 

良心的な生産者かどうかは田畑や農機具の状態でわかる

 

うちの定番ヒット商品、「切干大根」もそうです。これは、青森のある農家から「かたちが悪くて出荷できなかった大根をどうにかしたい」という相談があって始まりました。どうしたものかと考えていて、ふとその農家で目に留まった切干大根のことを思い出しました。そこでは家庭用の道具でつくっていたのですが、設備投資を提案し、機械を福島屋で購入して本格的につくることにしたのです。
もともと無農薬の美味しい大根だったので、あっという間に大人気。今では年間100万円の売上を出すほどの、福島屋のロングセラー商品となっています。

 

私は、店の立て直しの第一歩はクリンリネスの徹底が絶対だと思っています。
「売り場に愛情がない」。それがこの店に対する、私の第一印象でした。お客様や商品に愛情もなければ、大切にしようという気持ちも感じられない。そういう店の印象は、そのままストレートにお客様に伝わります。
そして、クリンリネスはその鏡です。
売り場に愛情が感じられない理由として、まずはトイレ掃除がまるでダメ。ガラスもホコリだらけで曇っている。バックヤードも雑多で片付いていない、プライスカードも汚れている。商品もただ並べているだけ。スタッフの受け応えも的確であったものの、響きに優しさが感じられない。何よりスタッフがお客様の顔も見ないで会話している。