農家になるつもりはありませんが、ネマルカフェでは農家(実家とその近所)からの直接仕入れをしていますし、野菜やお米をつくる大変さはそれなりに理解しているつもりなので、生産者がちゃんと稼ぎ、労働に見合った収入を得るにはどうすれば良いのかをよく考えます。
それで、4冊の本を読んでみました。3冊は外資系企業から脱サラして専業農家になった杉山経昌さんの本。もう1冊は週末農家をすすめる増山博康さんの本。
杉山さんは、農業に従事する人の仕事ぶりはムダ(非効率な作業)が多く、農家にもJAにも「人件費」という概念がないといいます。1時間あたりいくら稼げるかということについては考えないそうです。だから、働きづめなのに収入が少ないのだと。
杉山さんは外資系に勤めていた時代に培ったデータ分析のノウハウを活かして、効率的な経営を行なっています。時給に換算すると160円くらいにしかならないという米作はやらず、データ上もっとも効率的に稼げるはずのぶどう栽培をメインに就農したのです。
しかし、誤算もありました。初年度にJAが想定(データ)の3分の1の値段でしかぶどう買い取ってくれなかったのです。JAとの取引では、出荷してから数ヶ月後にしか「いくらで買い取ってくれるのか」の単価が分からないそうです。JAが卸先に販売できた価格によって農家への報酬を決めるそ取り決めになっているのです。だから、JAから入手したデータからぶどうの単価を想定していたのにも関わらず、その3分の1の価格でしか結局ぶどうは売れなかったのだとか。JAにとってはいくらで販売しても利益が出るシステムですが、農家にとってはつらいですよね。
それで杉山さんは、ぶどう畑を観光ぶどう園としてPRし、ぶどう狩りのお客様を誘致します。つくったぶどうは全てぶどう狩りのお客さんに販売することで、アクセク働かずに年収600万円を得られるようになったそうです。
一方、増山さんは普通のサラリーマンが週末農業をすることで、家計がかなりラクになると言います。育てやすい野菜をチョイスすれば、週末だけでもちゃんと育てられるし、それを食べれば健康的な食生活が送れる上に食費が浮く。それに、素人がつくった野菜は意外によく売れるそうです。友人に売ったりバザーで販売したりすれば、月収10万円も可能だと。JAの規定に沿う野菜は農薬をたっぷり使っているので、それに比べたら素人の野菜の方が安心できると思う人が多いのでしょう。
今の日本ではJA抜きに農業が成り立たないのは確かですが、既得権益を必死に守るJAに首根っこを掴まれている状態が、農家をジリ貧の状態に陥れているのも確かだと思います。
JAは巨大な組織ですが、国家に比べたら弱小なので、佐藤優さんの
一見、関税障壁を撤廃するというTPPは自由貿易の象徴であるかのようですが、本質は全く違う。米国の狙いは、中国の台頭をもはや一国で抑えることは難しいため、日米軍事同盟、米豪軍事同盟、米ニュージーランド軍事同盟をひとまとめにして、それをかぶせる経済体制をつくりたい。これがTPPの本質であり狙いなわけです。
ですから、TPPとは自由貿易ではなく、ブロック経済の復活というのが本質です。経済協力の体をなしながら、本質は同盟なのです。ですからこの枠組みから日本が外れることはありません。
もし別なシナリオがあるとしたら、中国と経済・軍事同盟を結ぶか、あるいは核を保有して独自に他国とのパワーバランスを保つ。いずれにしても現実的にはありえない話です。
という説が正しいなら、JAがいくら反対しようとTPPへの参加は避けようがありません。JAに頼っていても農家はますます苦しくなるのではないでしょうか。杉山さんもちゃんと稼げているのは、観光ぶどう園というアイデアでお客さんに直販する販路を開拓したからです。これからの農業は、いかにJAを通さない販路を生み出すかによって、経営が左右される時代になるのではないでしょうか。
しかし、農家の方々の大半は販路を拡大する営業活動は超苦手なはず。今まで全部JAにおまかせだったのだから当然です。それを、「努力していない農家が悪い」と言っても何もはじまらないので、日本の食物の自給率を守るためにも、僕たちも農家の販路拡大について考えて手助けしたり、JAを通さない販路から野菜やお米を購入するような心がけがあっても良いのではないでしょうか。
ネマルカフェでも茨城産の野菜を売ろうと考えています。ネマルカフェの名前でバザー的なもの(なんとかマルシェとか)にも出店してみたいなとも思っています。カフェなのに、コーヒーではなく野菜を売りたいなと(笑)
以下、各本のメモです。
◎『農で起業する!』杉山経昌
私は長い間、サラリーマンをしてきたが、百姓は現在の日本では一番ストレスの少ない職業だと思える。
たとえば「きつい」と言うが、それは肉体面だけで、それとても50年前はいざ知らず、いまはトラクター、除草機、管理機、定植機、動力噴霧器など機械化されていて力仕事はほとんどない。おそらく都会のサラリーマンの朝の通勤ラッシュの方がよほど体力がいる。
精神面でのストレスもほとんどゼロ。百姓で胃に穴をあけて死んだという話など聞いたこともない。
「汚い」も「危険」もやり方次第でキレイにも快適にもなる。
人間は自動車に乗って高速に移動することができるようになった。これはものすごい進歩みたいだけど、それは間違いですよ。あなたは車を買うために何時間働いていますか。車検代、保険料を払うために、燃料を買うためにものすごい時間、何百時間も何千時間も働いた結果、車に乗ってちょこっと移動しているだけだ。アフリカのサン人などはあそこに行きたいと思った瞬間に歩き出すという。みなさんは車を買うために何千時間か働いてから移動する。実際にはみなさんの方が遅いよと言っている。しかもエネルギーを浪費している。これが進歩ですかというわけだ。
就農したいと言って私に話を聞きに来る就農希望者に、私がまず最初に聞くことは「協力して苦楽をともにしてくれる伴侶がいますか?」ということ。これは大切だ。
成功するか否かの80%がここにかかっている。
30%の方は奥様の同意を得られぬままフライングで来る。10%の方は奥様が「アナタ勝手にやりなさいよ!私見ているわ!」という黙認非協力型。40%は独身で協力者未定の甘いタイプで、20%が結婚の形を取っているか否かを問わず2人で協力してチャレンジしたい方々。この協力型は適切なアドバイスをしてあげれば必ず成功する。
自分たちが旅行中毎日あちこちでぶどう狩り、リンゴ狩り、梨狩りをして、喰いまくる。これは全部農業経費。美味しかったら園主をつかまえて「こんなに美味しいのは食べたことがない。すごく美味しいね。どんな肥料をやってるの」と聞くわけだ。
脱サラで新規就農する人たちはなぜかほとんど有機農業をめざしている。しかし、それだけでは食べていけない。なぜなら消費者は労賃も含めたコストを負担しようとしないからである。実際その道に入って、夢破れる人の例はここ綾町にもたくさんある。そのなかで自分の意思を曲げないで頑張っている人もいて、見ていて悲惨である。どうせ長くは続かないと思うが、Hさんは東京の家賃収入で、Iさんは奥さんの勤めで、Mさんはやはり奥さんが保険の外交をして、Oさんは独身なので建設作業員をしてそれぞれの理想を追求している。ちなみにOさんの農業の年間収入は60万円! 経費を除いたら手取りはマイナスでしょう。もしあなたが自分で作っていないで本物の有機農産物を口にする機会に恵まれたら、あなたの食べているモノは、昼休みの職場に滑り込んで保険の勧誘やら、スコップで掘り起こす水道管に落ちる汗の滴です。
1990年2月21日のバブルの崩壊で植木等が「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」と歌ったサラリーマンの地位は地に落ちた。
「タイムカードを押していれば」どころか、一生懸命に仕事をしていても解雇される。社内にリストラ旋風が吹き荒れると椅子取りゲームよろしく、ほかの人をはじき出して自分が生き残ろうとする奴が増え、サラリーマンにとって会社は針のむしろとなる。その結果、この6、7年で百姓になりたいとメールをくださる方が増えた。
しかしいまだ発想は前向きではなく、会社の人間関係から逃げたいという動機が目立つ。その状況ではたとえ就農者が増えても、農業界は産業界の姥捨て山になるだけで喜べない。
◎『農!黄金のスモールビジネス』杉山経昌
農業の世界では長年、「経営」と「販売」はJA(農協)など他人任せで、物作りだけしてきた経緯がある。
しかし、本書で述べるように、これからの農業は自分でお客さまと交流して「販売」も「経営管理」も最小限度の配慮をする農家が生き残れる時代となった。
これからの農業経営は、ますます小規模であることが必要になってくるだろう。
そのためには、まず、固定費、変動費をどんどん減らすことだ。
経費がかからない農業をする。
単純なことだが、経費半分=利益は倍である。
ほとんどの人は、小規模化というと、
経営規模が小さくなる→収入が減る
と思い込んでいるが、そういうことではない。
利益が欲しかったら、仕事を半分やめろ。
半分やめるとムダがなくなる。
赤字の作物をやめるだけで、ムダがなくなり、自分にも地球にもやさしくなれる。
労働時間も減って、余裕ができる。余裕の時間に改善の工夫ができるようになる。
その改善によって、少ない労働時間でたくさん利益が出てくる。手元にたくさん残る。
こうしたプラスの連鎖が起こってくれば、間違いなく成功する。
安売りしてはいけない!
いまの価格の5割増しで売ってみよう。
どうやったら高く売れるか? 考えてみることが大切だ。
不思議なことにJAでは1リットル買っても10リットル買っても、配達でも店売りでもすべて単価が同じである。経営者がサービスというものは無料だと思っているらしい。
JAはみんなを助けてくれて、いいところもあるが、すべて足したら害のほうが多い。
やはりJAはないほうがいい。
その最大の理由は、自由な競争を阻んでいるからだ。
私は、いろんなことをやって、失敗してきた。
人のマネはしない(差別化経営)がポリシーだから、普通の人がやらないことをやって、10のうち9は失敗している。
しかし、その1つの成功でも、その成功をだんだん溜めていくことで、普通とはかなり違う経営体になってくるのだ。
やりたいことはすべてやってみて、試してみて失敗する。
うまく成功すれば、それを溜めていく。
たとえば、みかん。農協の選果場に行くとみかんを大きさと外観で選別して、それにベトベトにワックスを塗って箱詰めしている。
あのベトベトのワックスをなめながら食べるのか?
情報管理が、農業ではなおざりにされてきた。日本の産業界全体でもそうだ。
前にいた外資系企業では、「知的資産管理部門」が一番、利益を生んでいた。
◎『農で起業!実践編』杉山経昌
さて、このように経営を改善させ、軌道に乗ってくると、もっともっと経営の効率を良くし、工夫したくなってくる。
だが、自分だけで考えていても行き詰まってくる。
そこでおすすめしたいのは、研修会や勉強会に積極的に参加することだ。
不思議なもので、どこの業界でも優秀な人たちが集まって「まとまり」を形成している。
そういう大きな「まとまり」は、きっと日本中にあるはずだ。
また、そういう「まとまり」によって、そこに参加している人たちは知恵を出し合い、相談し、協力し合うことによって、参加者はより成功することができる。
このような集合知の力は侮れない。
◎『半農生活をはじめよう』増山博康
実際に私は、野菜を育てはじめた最初の年から、週末だけの半農生活で2000㎡の畑を耕して、野菜を育てて食べ、そして売っていました。
たとえば、バザーに自分で育てた野菜を持ち寄ると、あっという間に売り切れました。知り合いのお店やボランティア団体に「野菜を仕入れて売ってみませんか?」と聞くと、たいていはすぐにOKしてくれました。
こうした体験を通じて私が感じたことは、
・野菜は自分で育つ力を持っている
・世話は野菜が育つのを助けるに過ぎない
・だから世話が完璧でなくても(素人がやっても)、野菜は育つ
・副業レベルなら素人農家がつくった野菜でも売れる
ということです。
日本の農業人口は、明治のはじめごろは全人口の8割、長嶋茂雄さんがプロ野球デビューした1950年代までは5割でした。
つまり、2人に1人が農家という時代がつい最近まで続いていたのです。
菜園で野菜を育てる場合は、連作障害に気をつける必要があります。
連作というのは同じ種類の野菜を同じ場所でつくり続けることで、連作障害というのは連作の結果、野菜が病気にかかってしまうことです。
なぜ、同じ野菜を同じ場所でつくり続けると、野菜が病気になりやすいのか?
野菜の病原菌にはそれぞれ好みの野菜があるので、たとえばトマトだけをずっとつくり続けていると、トマトを好む病原菌が土壌中に増えてしまうからです。
専業農家は、たとえばキャベツ専業とか、トマト専業とか、特定の野菜だけを大規模に育てることがありますが、そういう農地で連作障害が起こってしまうと、農家の経営が成り立たなくなってしまうぐらいの被害が出てしまうこともあります。
現代の農業では、連作障害の対策が課題となっているのです。
1人暮らしや少人数の家庭におすすめなのが、ミニ野菜です。
たとえばカボチャは、夏に収穫して室温で放置しておいても、翌年の春まで十分に保存できます。ところが、いったん包丁を入れてしまうと、とたんに足が早くなってあっという間にダメになってしまいます。
それがミニカボチャだと、普通のカボチャの4分の1くらいのサイズなので食べ残しがなくなり便利なのです。
半農生活で副収入を得るために野菜の販売方法を考えるとき、絶対といってよいほど避けたほうがよいのがネット通販です。ネット通販では、対面販売では長所となった野菜の商品特性が裏目に働くようになるからです。
野菜は生ものなので保存が利かない食品です。在庫をストックしておくわけにはいきませんし、注文のメールがきたからその日のうちに発送するというのは、半農生活で対応するのは難しいでしょう。それに、相手の自宅に宅配便が届いたときに不在だと、再配達時に受け取った段階で野菜が悪くなっていたということもあります。
また、ネット社会ではなにもかもが平等であるということも、みなさんにとって不利に働きます。日ごろから充実したネット通販会社のサービスに慣れている消費者は、みなさんのサイトも大手の通販会社と同じものとみなして、同様の質のサービスを要求するからです。
そうなると、「副業でやっているんだから」とか、「個人の趣味だから」などという言い訳は聞いてくれません。
もしも、ヘビークレーマーが登場すれば、対応に振り回されてしまって、本業の仕事にも悪影響が出るおそれもあります。
このように、ネット通販は不特定多数を相手にするので、品質に対する責任を持つことが難しい反応生活のアマチュア農家には向いていないのです。
半農生活のアマチュア農業では、素人商売の限度や限界を「わかってくれる人」に売るのが原則です。
したがって、顔が見える関係での対面販売や、卸し販売を限定したほうがよいといえます。
収穫のやり方も手間を減らす工夫が必要です。
たとえば、ホウレンソウのような野菜は根ごと引き抜くのは厳禁です。卸し先の人も、ダイコンやニンジンが泥付きというなら、ナチュラルな印象を持ってもらえます。
しかし、ホウレンソウの根に泥のかたまりがついているのは歓迎されないのです。