Jリーグ発足時から地元アントラーズのファンだが、今シーズンのアントラーズは不甲斐なく、現在8位。J2からの昇格組である松本山雅と湘南ベルマーレと勝ち点で並んでいる。
湘南ベルマーレは曺監督のもと、昨シーズンは史上最速でJ1昇格を決め、今注目を浴びているチームだ。
かつてはベルマーレ平塚としてJ1の強豪のひとつだった。メインスポンサーであるフジタの撤退後、急速に弱体化。しかし、市民クラブとして地道に再建し、現在に至る。その軌跡を取材したのが『低予算でもなぜ強い?湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』だ。
以下、メモ。
「J1リーグ昇格が簡単でないだけに、勝利を目指すだけでなく、地域により愛されるクラブとなるような行動が基本になると、我々は考えました。多くの人々や法人の方々と一緒になってベルマーレを語り、スポーツを楽しむ。その毎日がベルマーレの存在意義を明確にし、多くの人に愛されるクラブになる。Jリーグが模範としたドイツをはじめとするヨーロッパには、何十年もの時を刻んで地域に愛され、強豪となっていったクラブがいくつもあります。そんな理想像を思い描いてホームタウンに眼を向けたときに、そうだよなあ、と思ったんですよ」
引き分けや敗戦という結果も受け入れざるを得ない以上、プロスポーツとしての定義、企業で言うところの理念がなければいけないはずだ、と大倉は思い至った。
「プロサッカーチームとして、我々はどういう商いをしているのか。なにを売っているのか。モノ作りの企業ではない。人を育てて人を感動させる。エンターテインメントを商売にしている。勝利が約束されていないなかでスタジアムへ足を運んでくださったお客様には、少なくとも『負けちゃったけれど、お金を払って観に来た価値があったね』とか、『次の試合は頑張れよ』と声をかけてもらったり、『面白かったね』『痛快だったね』という思いを抱いていただきたい。それがプロサッカーチームとしての我々の理念じゃないだろうか、と考えるようになりました」
予算規模という壁に、大倉は絶望感を抱いたことがないのだろうか。8億円と20億円には、絶対に越えられない壁がある。心が諦めの色に染まったことは、一度たりともないのだろうか。
大倉は口ごもることなく、「ないですね」と柔らかい声で言った。
「我々の試合はエンターテインメントとして成立しなきゃいけないと思っていて、そこにすべてを注力してきたので、簡単に言うとお金がなくてもできるんです」
ベルマーレのサッカーを観戦する関係者からは、「よく走るチームですね」という声が聞かれるようになった。「何のためにサッカーチームは存在し、キミたちは何のためにベルマーレのユニフォームを着ているのか?お金のためじゃない、お客さんを感動させなきゃいけない、夢を提供しなきゃいけない」と、大倉が伝え続けてきた成果が表れてきた。
監督就任の記者会見で「湘南の暴れん坊を再現したい」と切り出した反町は、「J2リーグのほかのクラブがうんざりするほど、うざいほど仕掛けてくるな、というチームにしていければいいと思う」と目指す具体像を明かした。
ベルマーレが誇るべき、“湘南スタイル”も、プロセスのひとつである。それだけに、曺は自らと選手の気持ちを内向きにしない。指揮官も選手も、自分たちのスタイルを潤んだ眼で見つめないのだ。
「我々のスタイルを対外的にも発信できるようになりましたが、スタイルに酔ってはいけない。『オレたちにはスタイルがあるから』と、選手自身が言うのは違う。我々は自分たちのサッカースタイルや方向性を信じてやっていきますが、それは勝ち点3につながるなかで信じること。極端な言い方をすれば、『オレらはスタイルがあるから、あんなサッカーをやって勝ちたくないよ』というのは違うということです。2013年のJ1リーグで我々は降格しましたが、『湘南って負けているけど、降格するチームのサッカーじゃないよな」という言葉をもらったりしたことで、選手がどこかホッとしたらいけないと思ったんです。スタイルに酔うというよりも、居心地の良さを見つけたらいけない。それでは上のレベルにはいけない」